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翡翠
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創作したい新社会人。ポスト削除常習犯。 作るもの→絵/文章/音楽/パズル 作ったものはメディア欄にあります。RPと引用多め。 アイコンとヘッダーは自創作『祈りの千花』より。
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背後でゴウと鳴ったのは、きっと最期の咆哮だった。 相互様よりいただいたお題「キマイラ」 『決別』 #創作#小説

俺はキマイラだ。と、急に言うと頭のおかしい奴だと思われるだろうが、まぁ一旦飲み込んで聞いてほしい。
 父親はとても傲慢で怠惰で攻撃的な男だ。食事は自分の前に一番に並ばないと気が済まない。火事などひとつも手を付けない。それどころか、しばしば仕事さえサボってパチンコに行く上、結局バレてクビになるような男だ。些末なことで怒鳴り散らして、殴って蹴って突き飛ばす。だからこの男は「ライオン」なのだ。そしてその息子たる俺も、カッとなるとすぐに手を出してしまう。「ライオン」の背を見て育ち、毎日毎日怒鳴り殴られながら生きてきた俺は、特に中学の頃まで、それ以外の不満の表し方を知らなかった。学校という外界のおかげと言うべきか、今はまだ少し落ち着いている方だと思う。それでも、あの男から乗り移った短気がずっと俺の中に巣食っていて腹立たしい。
 育ての母親はとても性格が悪い。俺にできないこと、知らないことを並べ立てては嘲笑うような女だ。お前は出来が悪い、流石はあのつまらない女の息子だと罵り嗤い、幼い俺が泣くのを愉しむような女だ。だからあの女は「毒ヘビ」だ。そしてその「ヘビ」の毒飯を食らって育った俺も、俺よりできない奴を見ては知らず知らず嗤ってしまう。
安心にも似たあの愉悦感は、一度知ってしまえば簡単には手放せない。とはいえ性格の悪さを自覚しているだけ、まだあの女よりマシだと信じている。
 産みの母親は……正直よく知らない。死んだのか家を出ただけなのかすら知らない。知らないが、きっと普通の人であっただろう。いや普通の人であってくれ、という希望を込めて「ヤギ」だと思っている。こんな俺でも、血の半分は「ヤギ」のはずだ。俺の中にも、人懐っこくて臆病で、そのくせ好奇心旺盛な「ヤギ」がいるはずなのだ。と言いつつ、微塵も実感したことはないが。
 とにかくこんなクソみてえな家で、社会の嫌われ者を詰め込んだような環境で、よくもまあこの歳まで犯罪歴もなく生きてきたなと我ながら思う。喧嘩沙汰を起こしたことは何度かあるが、似た者同士が互いに煽り合い殴り合っただけで、別に大きな問題にはならなかった。
 今日はいつもより早く家を出て、少し離れたコンビニで酒とタバコとライターを買う。どうせ年確なんてされやしないからと、堂々と買ったら買えた。俺は今生まれて初めて、あの男から受け継いだ老け顔に感謝している。
ところで、キマイラは口から炎を吐き出すらしい。だから人間版キマイラたる俺も、伝説の化け物に倣ってみようと思う。
 酒をゴミ箱近くの床に撒いて、タバコに火をつけたまま捨てる。泥酔状態の父と入浴中の母を残し、一人家を後にする。出火元が煙草だということになれば、ヘビースモーカーだった父親の不始末で片付けられるかもしれない。万が一酒を撒いたことに気付かれても、ゴミ箱にある異常な量の酒瓶やビールの空き缶を見れば、酔って溢したと思ってもらえるかもしれない。
 俺が未成年ながらコンビニでタバコと酒を買ったことは、もちろん調べられればすぐにバレてしまうだろう。けれど、調べられる間もなく事故と処理されたなら。
 玄関の戸を閉める。鍵を掛ける。大丈夫、もう普段家を出ている時間だ。逃げるわけじゃない。仕事に行くだけだ。
「俺は何も知らない。だから何も悪くない」
 あいつらが死ねば、いつか俺もキマイラじゃなくなるんだろうか。ライオンも毒ヘビもいない世界でヤギたちに紛れて生きていけたら、いつか俺もただのヤギになれるだろうか。
背後でゴウと鳴ったのは、きっと最期の咆哮だった。
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星空インナーカラー🌌

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ちっぽけな楽園 #illustration#一次創作#少年

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月が欠けていく ぼくの身代わりとして #一次創作#illustration#オリジナル#少年

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half up #イラスト#創作

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すんごい小さい少年とすんごい大きな祟り神 #少年と祟り神_日常編

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めっちゃ小さい少年とめっちゃ大きな祟り神 #少年と祟り神

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小さい少年と小さい祟り神 #少年と祟り神_日常編

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優しい父だった。 『カゾク』‐ 1 #創作#小説

カゾク‐1 ムスコ
 優しい父だった。手先も口も不器用で、そんなところも好きだった。男手ひとつで育ててくれた、自慢の父だった。
 母、美波は、俺が生まれて間もなく亡くなったという。父は母の話をするのを嫌がっているようだった。きっと悲しみに耐え難いからだろうと、俺は深くは聞かなかった。
 父は、俺と少しも似ていなかった。恐らく血の繋がりがないのだろう。どういう経緯があったのか分からないが、本当の親子でないことは確信していた。
 父のことは愛しているが、それでも時々寂しくなる。両親は俺と似ているのだろうか。母はどんな人だったのだろう。俺の本当の父親は、今どこで何をしているのだろう。
 だけど、どうしても聞くことはできなかった。聞けば全て崩れ落ちてしまいそうで、それが嫌で、飲み込んだ。

 それなのに。

 今、床に尻もちをついた俺の目の前には、割れた蛍光灯。そして、俺に向かって灰皿を振りかざす父。
「もう限界だ」
俺の知っている父の顔が、その口が、俺の知らない言葉を紡ぐ。
「お前にはもう美帆がいない! 美帆がどこにもいない!」

 ゴッ!

点
点
点

 ねえ、父さん。ゴツゴツした手で俺を撫でてくれたのは嘘だったの?
 美帆って、誰?

 意識の隅で、何かが崩れた。
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