どの作品でもドストエフスキーが主人公、もしくは重要な役として登場します。さらに幻想的・SF的な趣向が用意されており、不思議な味わいの物語集となっています。 ドストエフスキーの実作やその生涯を知っているとより楽しめるのだと思いますが、そうでなくても充分に面白い作品集です。 一番面白く読んだのは「精神科医の診察室」。未来に人工作家として復活した文豪ドストエフスキーは、新作を書くのではなく、旧作の改訂・改変にとりかかります。時代に合わせて内容を改変し、娯楽性も増さなければいけないというのです…。

人工作家とした甦ったドストエフスキーが精神科医の女医とのカウンセリングの最中に、作家の旧作の改変について語られる、という物語です。 『罪と罰』を短縮するのを手始めに、テレビ版を作成、さらに各国別に十二のバージョンを作成するとか、『白痴』を探偵小説として書き直し、その続編二十九冊がすでに予告されているなど、原型をとどめないほどの改作予定があることが語られます。 人工作家を作る際の莫大な費用を回収するために、それに見合った結果を出さなければならない…という、極めて資本主義的な発想がブラック・ユーモアたっぷりに語られる部分が面白いですね。