入口で立ったままになっている炎に気づいて近寄ってにこりと笑った。とっつきにくそうな見た目と雰囲気ががらりと変化して「おはよう。ここの課長の啓といいます。きみがいた部署とは雰囲気も業務内容も違うだろうけど、これからよろしくね」と手を差し出されたので驚きつつも握り返した。随分と若く見えたので、まさか課長とは思わなかった。腐っていても働かねばならない。炎は気を取り直して頑張るしかないと気合いを入れ直した。だというのに、初日から業務は他部署の雑務ばかりで、手間と時間のかかるものばかり。とんでもなく忙しいうえに5人の先輩が曲者しかおらず、人遣いも荒い。

1週間が経つと色々見えてくる。先輩たちは悪い人たちではないが、うるさいしマイペースだし、好きでもない紅茶を毎日必ず振る舞われるし（すごく美味しいのがまた癪）、呼ばれて振り返ると頬に指を突き刺されるし、勝手に占われて人格否定されるので嫌になることはしょっちゅうだ。が、彼らは仕事ができる。驚くことに専門分野がそれぞれにあり、他部署の庶務雑務をこなしながら結果を出している。個人主義なのに、人の輪を大事にしているので炎にも必ず一声かけるし、空気を読んでそっとしておいてもくれる。報連相がしっかりしているので、末端の炎にも漏れがない。そういうところは好ましく、仕事の面では尊敬もしている。悔しいことに。