「これまでの建築のプレゼンへの批評」がうまくハマらないときに、それを学生のせいにして詰るのではなく、自分の見識がうっかり広げられることに驚いて喜べる、講評者としてはそういうメンタリティを持ちたい。そして学生のみんなには、変に講評者の思惑を先読みしてプロジェクトの「意義」を語ったりしようとせずに、愚直に執拗に丁寧に作ってほしい。
この講評会の異種格闘技戦的な状態は、単に混沌を目論んでいるのではなく、うっかり正義のヒーローを自認しがちな建築を「手段のひとつ」として建築的思考や視座を相対化し位置づけるための場なのだ。そしていわゆる「社会性」を背負わされて、最後に「地域住民」や「市民」や「みんな」なんていう抽象的で漠然とした対象に利益をもたらす物語をくっつけた作品よりも、私の興味や関心を突き詰めた作品が見る人を救済することがある、という立場に固執したいという思いを強くした。
そもそも社会的な問題に対しても建築はべつに万能ではない。というか、解決に建築が必要な場面はとても限られる。建築なんてしょせん「お膳立て」に過ぎない。巧妙なお膳立てが威力を発揮する場合もあるだろう。でもそれは、ある課題への対処に有効だと思われるいくつもの手段のひとつとして建築が使われるのであって、「建築がどう工夫すればこの問題に当たれるか」ではない。震災のたびに「建築に何ができるか」という話が建築関係者の間に立ち上がるが、問いの立て方がそもそも逆だろう。「そこですべきことは何か、それに建築は寄与できるか」がまともな問いだと思うんだけど。
私たちが「建築のプレゼンテーションの方法」から学ぶことは大いにあるし、いつも学んでいる。実物を作って見せることが難しいために編み出された「模型」や「図面」などの媒体による表現、合意形成のテクニック、構想から建設までのプロジェクトのフェーズ、そういう「実現への過程」のエッセンスが建築計画案のプレゼンテーションには圧縮されて詰まっている。しかしこう言ってはなんだが、そんな建築の設計説明のやりかたは、建築が趣旨を伝えるために勝手に採用して鍛えてきた「型」でしかないので、そんな作法を非・建築の創作や研究に押し付けられても困る。
「強い制約の中のゲームを戦わざるを得ない建築作品と、何でもありのアート作品を同列に評価するのは公平ではない」という発言もあった。私は専任教員として学生たちを養護する立場からいろいろと反論したが、あまり通じていなかったようだ。うちの大学の講評会は、建築の卒業設計のつもりでクリティークしようとすると非常にわかりづらいしやりにくいだろうが、一見何でもありに見える様々なリサーチや表現のなかにも、建築設計を律しているような時代的・社会的な文脈や制約や意味や位置づけを読み取って批評することが、むしろ講評者である私たちに求められることだと思う。
私の勤務先の大学の卒業プロジェクト講評会には、模型やプレポが出てくるいわゆる建築の設計案と、水溶紙で海洋散骨のための花を作るプロジェクトや、シルバニアファミリーで練馬や池袋の風景を作る挑戦や、砂と水だけを使ったビーチのデジタル／アナログ造形や、ホームセンターで調達できる機材だけで井戸を掘ったプロジェクトなどが同列に出てくる。そんな会で、講評者の建築家から学生たちに対して「先に設定した社会的問題意識がないものづくり作品などあり得ない」という主旨の厳しい批判が向けられた。
TwitterなどのSNSは「ヨコのメディア」だが、かつてのタテのメディアもSNSを利用しているので、オフィシャルなアナウンスと個人の発信とが並行して流れてくる。YouTubeは「タテの顔をしたヨコメディア」に思える。YouTubeはSNSだがそのデザインがテレビをモデルにしている。名前からしてブラウン管だし「チャンネル」も「番組」もテレビの比喩だ。これがある種の人への強い訴求力になっているんじゃないか。