米内は回想で蒋介石を大物として評価する中で、東洋の文明国である日本が劣った中国を先導してやることは当然であり、劣った側がケンカして来ても大人の対応をすべきという当時の知識人共通のアジアモンロー主義に基づいた中国観を披歴しているが、日中戦争回避については最も強硬に主張していた。結論を急ぐと米内の大変節は手嶋によれば、華南・華中という海軍管掌範囲に戦火が及んだ為の利害関係による変節。相澤はそれを一歩進めて、先に紹介した米内のアジアモンロー主義的中国憐憫が、3F旗艦出雲が空爆されるという事態で「劣った中国への憐憫が爆撃によって破壊された」とみる。

ワシントン条約離脱時日米海軍比率は米10：日8超で、米が条約枠上限まで主力艦整備達成には1940年以降、かつパナマ運河通航可能戦艦は40センチ主砲4万トン級が限界と予測し、条約枠上限まで整備してる海軍は、米が条約枠上限整備が終わる1940年以降に大戦艦建造すれば優位不動だと予測。これが大和型。今となっては、米平時建造能力を8万トンとした事、主力艦建造期間を数年と予測した事が破綻の原因とわかるが、当時米海軍が本気で、ワシントン条約上限まで生産出来たとしても、艦齢による同時退役問題があり、事実米海軍は急増産を否定していた。この辺も海軍の甘い見通しの原因となった。

対米七割を不磨の大典とする漸減戦略を無条約下で維持するには、常に「米製艦能力」を把握するともに、ビンソン計画及び両洋艦隊法（現戦力七割増）に対抗する建造計画策定が必要だが、ワシントン条約下米海軍整備状況が、それら計画に基づく対米七割への楽観視を招来したと相澤は書く。石川を始めとする軍令部は、ワシントン条約下で米海軍が財政上の理由から主力艦及び潜水艦等が建造出来ておらず、条約枠上限に到達していない点に着目し、かつ米海軍建造能力を平時では8万トンと試算。そして建造期間を主力艦は計画から数年かかるとした。

同論文で石川信吾を226事件連座から救ったのが枢軸派岡敬純と知る。岡は言わずと知れた海軍の長州人脈であり、石川は長州生まれ。末次信正からの海軍長州閥が悉く対米英強硬派・枢軸派というのが興味深い。岡の軍務局長等の海軍中央での主要ポスト就任には豊田(貞)の引きがあると思われる。

驚きました。どうかご自愛ください。

羽田出発式では次官山本号令一下、開隊したばかりの美幌空に向け離陸。当日は放送協会ラジオがライブ実況し、万余の観衆が出発式に詰めかけた。飛行機と言う「ハイテク」と「最新鋭爆撃機」「渡洋爆撃戦果」に熱狂した戦時下市民が浮き彫りに。この辺の市民の異様な熱狂が飛行機献納運動につながる。世界一周は三国同盟の余波で予定飛行コースを変更するなど難儀したが大きなトラブルもなく太平洋を横断。南米からスペイン～イタリア、タイ経由で羽田に降りる行程に国民は熱狂した。協力を謝しに海軍省を訪れた毎日新聞社長に山本は「いやあ、金星エンジンの南方耐熱試験が出来よ」と。

毎日新聞は先述の通り、海軍満期除隊組パイロットの受け皿になっていた。また戦地での新聞発行業務でも海軍の天下りを受け入れている。軍令部は中国爆撃で使用している現役機の貸与は軍機として拒んだ。毎日新聞は社長が海軍省を訪れ世界一周プランを披歴。これに興味を示したのが次官だった山本五十六。山本の鶴の一声で軍令部も折れた。被弾して内地返納となった横須賀空保管の機体を毎日新聞側が三菱で回収すれば貸与するという条件を出した。毎日新聞は航本指導の下に武装等を撤去し内装改修に着手。世界一周を発表し機体の名前を公募した。応募は十万件を超えて社会は熱狂。ニッポンと名付けられた。

一空は四月に内地帰還が迫る。松本飛行長は「我国は捕虜を認めない。君らは名誉挽回の機に接する事能わず。只今から敵陣地爆撃戦果確認の後に自爆決行せよ」と命じサイダーを渡した。一空行動調書には「敵地爆撃後被弾戦死 」と書かれた。

処分だと大西ら司令部生存指示責任も問われる。12F司令部の出した結論は「出撃命令を出し続ける」。ポートモレスビー爆撃を連日命令された。原田機は編隊四番機という「異常搭乗割」。編隊両翼二番、三番機は外縁配置で対空砲火や戦闘機に狙われる「カモ番機」と言われた。原田機はカモの更に外配置。田村倉由少尉はこの異常配置を見て「死ねという事だな」と思ったという。爆撃は11機被弾したが原田機は生還した。帰還後搭乗員の白井二飛曹が自決未遂。白井は「不時着時、原田機長に自爆を言ったんだ」と泣いた。次の命令はモレスビー単独偵察。原田一飛曹は甲飛一期。つまり操縦技量抜群で帰還。

日中戦争での自爆奨励は、中国兵による搭乗員拷問殺戮回避の為と言われた。落下傘は着けるなが合言葉となったが、拷問殺戮実態は不明。これが対米戦では12F参謀長の大西発言で変化した。大西は対米戦長期化から搭乗員消耗回避を主張し生存帰還せよと訓示。原田機がアラヤット不時着選択した理由。当初、一空では陸軍が原田ら搭乗員を保護した連絡が来た時は、英雄の帰還として容認したが、原田から米軍捕虜になった報告で態度が変わる。査問委員会が開かれた。大西は不問に出来ないか主張したが、陸軍に海軍搭乗員が捕虜になった事が明るみになった点が問題化。原田らは幽閉される。