「賞なんかよりもフェアトレード認証の方が有意義でしょ」と誰かにツッコミを入れてほしかった。😑

こうなったら、フェアトレード作品賞を創設するしかないかな。

生活できないほどの低報酬で出版契約を結ぼうとする出版社、悪意があってやっているわけではなくて、大抵の場合は単に著者・訳者がそれで生活できるのか真剣に考えたことが無かったという、制度的に考えなくて済むことは考えないという惰性が原因な場合がほとんどでしょう。 考えるきっかけさえ作ってあげれば、出版社勤務の方のほとんどは、「たしかに、このままじゃダメだな」という風に認識を変えて、積極的に新しいことにチャレンジしてくださると思いますよ。

来月までに公開予定の新たなリサーチ記事のために、世界各国の「モデル契約書」を精読しています。とても面白く、学びが多い時間になっています。比較分析の結果を共有するのが楽しみです。

「言うは易く行うは難し」ですが、まずは「優れた本ならば、報酬度外視で訳してくれる人がいるのだから、訳者報酬は生活が成り立たないほど低くてもいい」という暗黙の了解を拒否し、「訳者には生活が成り立つだけの報酬を支払う」「その金額も訳書の制作コストとして予算に組み込む」という商慣習を定着させていくのが先決でしょう。 そのためには、訳者の自助努力も必要ですが、読者のみなさまの力が何よりも不可欠です。出版社の顧客は読者なので、当然ながら読者からの評判には非常に敏感です。「訳者にしっかりとした報酬が支払われたかどうか」を読者が気にするようになれば、状況は必ずや改善します。

しかし、当たり前ですが、海外作家の大多数はノーベル賞を受賞しません。どんなにすばらしい作品がどんなにすばらしい和訳で世に出ても、まったく売れずに終わる訳書はたくさんあります。そのような作品の翻訳に携わった訳者は、どうすればよいのでしょうか。ニュースになるような賞の受賞に一縷の望みをかけるしかないのでしょうか。 ノーベル賞を受賞したかどうかや、話題のベストセラーになったかどうかに関わらず、海外の名作を優れた和訳で世に出した訳者には、せめて生活が成り立つレベルの報酬が支払われるべきです。それだけの文化的貢献をしたからです。

ノーベル賞って、色々な意味で著者・訳者という職業に対する一般的な認識のゆがみを浮き彫りにする制度だと思います。 何を言っているかと言うと、おそらく日本には、ノーベル賞をとるまではほぼ無名な海外作家がたくさんいます。そうした作家の訳書は、無名の作家の作品ということで、ベストセラーにはまずならないでしょうし、訳者も生活が成り立たないほどの低報酬で訳すことがしばしばあるでしょう。 ところが、ノーベル賞を受賞した途端に、既訳本が本屋さんに平積みになり、訳者にはそれなりの追加収入が入ります。一般読者からすると、「報酬度外視で訳した分の見返りを得た」という風にも見えるかもしれません。

AI対策は良いですが、AIをスケープゴートにして著者・訳者の低報酬の問題から目をそらすのはどうなのかなと思います。

こうした規範や価値観に対して、本のフェアトレードは「自分の空間と生活の安定は両方とも獲得してよい」と考えます。そもそも、自分の空間を確保したからといって、それは仕事の質を下げることを意味しません（むしろ公私の区別が難しくなって働きすぎてしまうリスクすら生じます）。高い質の原稿をタイムリーな形で納品しているのならば、それに対しては相応の対価が発生して当然です。また、たとえ労働基準法や来月施行のフリーランス新法の対象外であっても、一人の人間として、本の著者・訳者は生活や尊厳が守られて当然であるとも考えます。

現代の企業資本主義社会では、「十分な収入と安定がほしかったら、企業に雇用されて働かないといけない」という規範があります。そのため、個人事業主として著者・訳者を志す人は、収入が減ることや、短期的には生活が成り立たなくなることを、あたかも当然のこと・合理的なことであるかのように受け入れるよう、強い圧力を受けています。場合によっては、こうした価値観の内面化が進みすぎて、圧力すら感じずにそう誘導される人も少なくないかもしれません。